<aside> 🗒️ ここまでのあらすじ
この本の目的:美的価値(美しい、優美である、といった良さ)の理論を作るぞ。
規範的問い:アイテムの美的価値が、なんらかの行為をする理由を与えるのはなにゆえか?
第1章:データ(さまざまな美的領域においてさまざまな美的行為をしている人たち)をまとめる。説明しなきゃいけない6つの事項を確認。
第2章:規範的問いの明確化。「評価」「行為」「理由」「価値」など、共通の基盤となる基本的な概念を導入。本章でもおさらいしている。
第3章:美的快楽主義による、規範的問いへの解答。ざっくり、次のような立場。
第4章:美的快楽主義のダメなところいろいろ。第1章で確認した美的エージェントたちにはもっと多様性や社会性があるのだが、これを説明できない。 </aside>
美的快楽主義は、私たちを美的満足の追求者として描いていた。
目的地に向かうためにも、まず現在地を確認する。
目的地は、規範的問いに答える美的価値の理論。
復習:規範的問いの背景にはふたつの原理がある。
<aside> 📌 理由[REASON]:AがCにおいてφする上で、〈xはVである〉という事実は美的理由である=〈xはVである〉という事実は、〈美的に見て、AはCにおいてφすべきだ〉という命題に重みを与える。 the fact that x is V is an aesthetic reason for A to φ in C = the fact that x is V lends weight to the proposition that A aesthetically should φ in C.
</aside>
<aside> 📌 価値[VALUE]:必然的に、〈xはVである〉という事実が〈美的に見て、AはCにおいてφすべきだ〉という命題に重みを与える場合に限り、Vは美的価値である。
necessarily, V is an aesthetic value only if the fact that x is V lends weight to the proposition that A aesthetically should φ in C.
</aside>
美的な行為とはなにか。これは次のように切り出される。
<aside> 📌 行為[ACT]:Aのするφは、美的行為である=Aのするφは、Aによるxの美的評価の内容に反実仮想的に依存し、Aのφはxに携わることである。 A’s φing is an aesthetic act = A’s φing counterfactually depends on the content of A’s aesthetic evaluation of x, where A’s φing operates on x.
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<aside> 📌 評価[EVALUATION]:ある状態は美的評価である=その状態は、なんらかのアイテムがなんらかの美的価値を持つことの心的表象である。 a state is an aesthetic evaluation = the state is a mental representation of some item as having some aesthetic value.
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どの規定も、両辺に「美的○○」が入っている。美的問いには答えていない。
標準化された美的快楽主義は、美的に見てすべきことを、(専門性を持った)美的エキスパートならするだろうことと同定し、規範的問いに答える。
Judith Jarvis Thomson, Normativity - PhilPapers
専門性に関する、Thomson (2008: 209–14)の説明:
まとめると、トムソンに従えば:
美的に見て、AはCにおいてφすべきである=あるエージェント種Sが存在し、(1)AはSのひとりであり、(2)あるSが良いSでありうるのは美的専門性を持っている場合に限られ、(3)あるSがCにおいてφしなかったとすれば欠陥のあるSになってしまう。 A aesthetically should φ in C = there is an agent-kind, S, such that (1) A is an S, (2) an S is as good as an S can be only if they have aesthetic expertise, and (3) if an S does not φ in C then it is a defective S. (93)
標準化された美的快楽主義はこのスキームに則っている。
ネットワーク理論はトムソンの原則に、美的快楽主義者とはちょっと異なる美的専門性を付け加える。